『世は世界大戦のまっただなか。背中に自動連射銃を背負い,従軍看護婦のピンク色の制服の上にブルゾンをはおった彼女の手をひき,小型飛行機の銃弾を避けながら,走った。そして,間一髪のところで,兵器格納庫の扉のすきまに飛び込む。僕たちは息をあららげながら奥へと進み,陰になっているところへと腰をおろす。わずかな静寂ののち,敵機からの砲撃。防弾ガラスのひび割れる音,天井が弾丸のすさまじい音を何十倍にもひびかせ,ほこりをふるい落とした。胸のなかの彼女をきつく抱きしめ,からだをおおいかぶせる。再び,静寂が戻る。ゆるめた腕のなかから,彼女が顔をあげる。大きな,大きな,原子爆弾のすそので,僕は彼女の微笑みを見て,軽いキスをして,また強く胸のなかへと抱きしめた』。
世界のインターネットトラフィックを管理している13台のルートサーバーのうち4台が23日,一時的に停止した。問題が発生したのは,ネットワーク・ソリューションズ,国防総省,南カルフォルニア大学,および日本の組織が運営していたもの。
各サーバーのIPアドレスとドメインネームを結びつけるいわゆるDNSサーバーの親方,みたいなのが,世界に13個設置されている「ルートサーバー」。「A」から「M」まで名付けられており,サーバーがどこにあって,どこが管理しているかは設定ファイルnamed.rootに記載されている。日本の慶応大学にはそのMサーバーが置かれ,今回の事故に遭ったのはB,G,J,Mのサーバー。問題は1時間ほどで解決したそうで,各プロバイダーやサーバーのキャッシュが生きている間に復旧し,大した影響もなかったのだが…。
簡単に考えてしまえば,この13台のサーバーがなんらかの攻撃を受け,停止すると,数時間の後,すべてのネットワークトラフィックはゆっくりと停止に向かう。named.rootは,残された遺言に過ぎなくなる。「世界の終わり」が,銃弾と原子爆弾だけではないことを,私たちは知っている。終わりの姿を知っているならば,生きるべく姿も知ることができる。何をすべきかを,心得られる。さあ,「世界の終わりは,君と一緒に」。
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